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誰もがリコーダーを楽しめるように
古山和男 著(リコーダー演奏家、国立音楽大学講師)
先天性四肢障害児父母の会 会報 より
20年ほど前、片手が不自由なお子さんのご家族からの要望があり、友人たちの協力を得て「片手で吹けるリコーダー」を製作した。
この楽器は私が技術顧問をしているメーカーが継続的な製造を引き受けてくれることになったのであるが、それがきっかけで、本業の合間に様々な障害に対応する楽器の相談を受けるようになった。
以来2000件近くのリコーダーの設計や製作に関与していくうちに「この分野の専門家」のようになってしまったが、ここでは「リコーダーの演奏と教育の専門家」の立場で、障害とリコーダーに関する考え方などについて少し整理してみたい。
リコーダーを演奏する指の条件
様々な障害の個々のケースに対応するための工夫や改良を重ね。新しいシステムを考案し発明してきた結果、現在では指が1本(押さえる動作ができるなら手首でもどこでもよい)で2オクターブを吹ける笛を製作することが技術的に可能となった。
随意運動ができる両手の指の本数とその対応の可能性はこのようになる。
8本ー(1)「指孔の位置変更」または(2)「単純な補助キーを設ける」
7本ー(3)「第2孔を閉塞し7孔にして替え指で対応」または(4)「連動補助キーを設ける」
6本ー(5)「3連動補助キーを設ける」または「(1)(2)(3)(4)の組み合わせ」
5本ー(6)「オープン式片手用」または「(1)(2)(3)(4)(5)の組み合わせ」
4本ー(7)「クローズ式片手用」または「(1)(2)(3)(4)(5)の組み合わせ」
3本ー(8)「6孔3指笛」(8)(9)「3孔笛」(4)または「4連動補助キーと(1)(2)(3)(4)の組み合わせ」
2本ー(9)「(8)改造の6孔笛2指」または「(9)と(4)の組み合わせ」
1本ー(10)「(8)改造の6孔笛1指」または「(9)と(5)の組み合わせ」
補助キーのついたリコーダーは特別な楽器か?
指の本数が少なかったり指孔に届かない場合、そのほとんどは上記のように補助キーをつけて解決できるが、このような楽器が「特殊な楽器」と扱われることが多いのは残念である。
フルートやオーボエ、バスリコーダーなどにも様々なキーがついているが、特殊な楽器ではない。
楽器にキーを付けるのは、指が指孔の数に足りないからであり、指が届かないからである。
指より指孔の数が相対的に多いとき、または手に比べて楽器が大きいときに補助キーを活用することは、
昔から行われているあたりまえのことである。
「特殊な楽器」に見えるのは、人の指が10本であるという固定観念があるからである。
フルートと同じ役割のキーを付けたリコーダーが「特殊な障害者用楽器」に見えるのはこの思い込みの作用である。
指の数が人間より多い知的生物が棲む惑星がもしあったとしたら、そこはフルートにキーは必要ないかもしれない。といって、その星の生物はフルートを「障害者用」と扱うだろうか。
巨人国ではバスリコーダーのキーなど不必要であるが、そこに漂着したガリバーのバスリコーダーにキーがあったとしても、それは特殊なリコーダーとは呼ばれないであろう。
補助キーは楽器と使い手の関係を良くするための便利な器具にすぎない。
手の大きさや指の数の「正常値」という虚構の観念にとらわれないで、あくまでも使う人の指の形がノーマルであると考え(それが誰にとっても現実であり真実である)、その指で吹けるように考案した楽器にたまたまキーが付いていると単純に解釈すればよいのではなかろうか。
リコーダーを楽しむのには音がいくつ要るか?
演奏を楽しむのに必要な音の数は、音楽を楽しもうとする心に関わる問題である。
たくさん音を出せればそれだけ楽器として優れているわけではない。
演奏を楽しむのに大切なことは、出せる音を大切に味わって使い、それを楽しく美しいと感じる本人の気持ちであり、それを尊重する周囲の理解である。
たくさんの音符を誰よりも早く吹きこなすという演奏は立派に見えるかもしれないが、他の人と一緒に共感するという本当の楽しさを感じることのない競争に陥りがちであり、そのことに音楽的な価値や教育的な意義が認められるわけではない。
使える音が少ないとしても、その音でアンサンブルで和音を作る重要な役割を果たすこともできる。
リコーダーは自分で音色や音程を調節する作音楽器なので、音階のひとつの音に対しても、きれいな音にする余地はいくらでもあり、少ない音階でもよい音楽を作る工夫ができる。
複雑なキーを操作することを避け、無理をしないというのも大切な選択である。
これは指導者にもよく認識していただきたい点である。
みんなと同じように吹かなければならないか?
少ない指でリコーダーを吹くということは、それだけ指の動きや息のコントロールが忙しくなり大変である。
私の知る限りは、このような楽器に挑戦している人の方が、その努力と意志の強さによって、いわゆる普通のリコーダーを持っている子供たちより上手になることが多いようであるが、手に合う楽器を作ったからといって、誰もが吹きこなせるとは限らない。
これも障害のあるなしとは別の問題である。
残念なことであるが、本人の努力や興味、指導法や指導者の熱意の差によるものなのか、障害のない子供たちの中にも、うまく吹けない子どもが少なくない。
ただ、指に楽器が合わないことは、本人の努力や能力以前の問題であり、解決しておかなければならないことである。
この作業は、誰に対してもリコーダーが楽しめる可能性を確保するための前提として不可欠である。
この可能性の道が確保されてはじめて、障害のある子どもが他の子供たちと同じスタートに立てるのである。
しかし、楽器を用意する仕事の役割はここまでである。
この可能性の、道を進むかどうかは、本人の努力と能力と興味による。
上手に吹けなかったとしても、それは障害のせいではなく、その他のうまく吹けない子供たちと同じであり、機会が与えられたという意味では条件は同じである。
「同じように条件を与えられても」「同じようにうまくできないこともある」のが常である。
上達するかどうかについては気楽に気楽に構えていてもよいのではなかろうか。
どのような楽器を選ぶか?
音が多く出せて機能的であれば、吹き手にとってよい楽器であるとは限らない。
いろいろな意味で本人にとっての「よい楽器」があり得るので、楽器の選び方は、吹き手の希望や意欲、指導の方針などによって左右される。
そのため、楽器の設計には、保護者、指導者、障害の状態を把握するするOTなど医療訓練の専門家の情報や協力が大切である。
片手用などの既製の楽器は入手しやすいが、楽器に手の状態を合わせることを強いることになって、本人に苦労を強いるだけでなく演奏の楽しみの可能性まで狭め奪ってしまうことがあるので注意すべきである。
このような楽器の選択や設計、演奏の可能性または製作方法などについては定式がありません。
具体的な事例の情報が必要な場合は下記に問い合わせて下さい。
事例を挙げてお答えいたします。
直接お会いしたり、楽器の製作をすべてお引き受けするところまではお約束できませんが、時間の許す限りお役に立ちたいと思っています。
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